後世に継承すべきこの欅普請の伝統民家が、今、行き場を失っています。
千葉県香取市府馬に眠っていたこの「欅普請」は、すべて良質な欅材が使われています。長い年月をかけて、新材にはない強度や魅力を増しています。
しかし、この家を継承することが難しくなってきていることも事実です。修理するにも、手間や多額の費用がかかってしまい、一方で歴史や想いが詰まっている大切な資産を壊せない、そんなジレンマがあります。
再生を段階的に目指すなか、第一歩としてプロジェクトを開始しました。まずはこの「欅普請」がどんな建築物なのか知っていただき、皆さまと前を向いて進んでいきたいと思います。
日本の伝統的な建築技術を次世代に引き継いでいくことを目標としています。具体的には、木造建築の技術、屋根葺き、左官、装飾、畳製作など、様々な分野の伝統技術が含まれます。これらの技術は、文化財の保存や持続可能な社会の実現に貢献するとともに、日本の建築文化を支える重要な要素です。この「欅普請」プロジェクトはそれらを伝える重要な役割を果たします。
私が伝統民家存続について、危機意識の急激な高まりを痛切に感じたのは、2011年3月11日に発生した東日本大震災の時でした。激甚化した自然災害によって凄まじい被害が生じ、多くの建物が取り壊れている現状を目の当たりにしました。
現在でも地方には百年、二百年前に建てられた伝統民家がかなりの数が残されています。生活様式の変化に対応するため、改築はありますが、これらの伝統民家の耐久性は現代の工業化住宅とは比較になりません。
丁寧に手を入れていくことで、家族の歴史の記憶まで共有できる最良の住まいとして受け継いでいくことが可能です。その長寿命を支える建築技術は優れた手仕事によるものです。私は伝統民家を住み継いでいくには、昔ながらの技法や素材の活用が要であると考えています。
また、地域資源の活用、景観の再編にも関わる文脈へと繋がっていきます。それは私のデザイン思考の根底を流れ、いまとなってはライフワークとなりました。